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組み姿勢に欠けていたことが指摘され、現時点での実績が乏しく、瀬戸内地域などの産地造船所に比較して溝を空けられているという点も確認しておく必要がある。海洋土木事業者からのヒアリングからは、「道内での新造実績がないため、今後発注するにあたっては不安を否めない」といった見解が多かった。この根強い不安感を解消していくことが、今後の道内造船所の作業船分野への参入を切り開く道となるであろう。
次に、価格面での要因であるが、部材や搭載機器類等の仕入に当たっての海上・陸送運賃のコスト上積み、ロットでまとめることが困難である点、あるいは北海道特有の中間業者が複数存在する流通慣行、いわゆる『北海道価格』と呼ばれる現象等が複雑に作用しあい、仕入値が高留まりする傾向があげられる。「地区別原価形成要因」の項でみたような部材仕入れ価格の瀬戸内地域との1割程度の価格差は存在していると考えられるため、そうした格差を低減させていく取り組みが今後強く求められるであろう。
また、アフターメンテナンス等を勘案した場合、台船部は道内造船所で建造し、クレーン搭載は瀬戸内地域で行うという方法を検討する海洋土木事業者もいる。しかしその場合、追加的な往路分の回航費の負担が足かせとなり、一般的には台船部も含めて道外に建造発注が流出していることが多いことが分かった。今後の目標としては、道内でのクレーン搭載も併せ検討し、台船部建造とクレーンの搭載も含め、トータルでの道内建造が可能となることが求められるであろう。
また、人件費要因に関してであるが、海洋土木事業者からのヒアリングでは「道内船の高価格要因の一因として人件費があげられる」との意見が多かった。しかし、前掲の「地区別原価形成要因」より、造船所労働者賃金については、北海道の方が一般的に安価であることが分かった。従って、海洋土木事業者の指摘する人件費の高さとは、賃金そのものよりむしろ、生産性や効率面にあることが推定される。これに関しては、積雪の影響や寒冷地であるといった地域性に由来する部分も大きく、人為的努力では解消が難しい部分もあるが、道内造船所においても、瀬戸内地域からのヒアリングで得られたような稼働率向上や生産性アップのための経営努力が今後さらに求められると考えられる。
納期面での流出要因としては、納期の時期的集中があげられる。こうした春先の工事ピークの時期は、道内造船業の主たる売上の柱である漁船も含め、工事時期のパッティングが多いという北海道の特性を把握しておく必要がある。また、海洋土木事業者にとってみれば、短納期(納期集中対応)が可能である瀬戸内地域の造船業者は、より魅力のあるものと捉えられていることが分かった。
直接的な流出原因とはなり得ないが、部材や搭載機器類の調達に関しても、供給業者が集中している瀬戸内地域に比べ、材料手配に日数を要することが北海道では比較的多い。
こうした納期面における道内造船所の不利な点については、地域的な特殊性といった原因も絡んでいるため、自社だけでの人為的努力では解消困難な部分も多々あることが考えられる。しかし、海洋土木事業者のニーズも含め、このような状況があることをしっかり認識した上での対応と取り組みが必要であろう。
次に、技術面での道外流出要因として根本的に存在しているものが、起重機船特有の技術に

 

 

 

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